最近はビールを飲む機会がめっきり減った。
この夏は私も息子も飲むだろうと思い、キリン「晴れ風」を1ダースぐらい購入したが、結局、ほとんど飲まずにもう冬だ。正月に消費できるだろうか。
私がマーケティングリサーチの仕事をしていたころ(1980年代)、キリンビールはまさにガリバーだった。販売数量ベースのシェアは6割ぐらいだったと思う。独占禁止法への抵触が持ち出されるぐらいのシェア。次いで、サッポロビール、そしてアサヒビールとサントリービール。他の3社とはかなり大きな開きがあった。現在は、販売量では、アサヒとキリンが拮抗し、サントリー、サッポロの順だそうである。隔世の感がある。
当時は、ちょうど"生化"と”缶化”が進み始めたころ。主流はリターナブル瓶だった。ジョッキの生ビールを出す店も増えていたが、瓶ビールが多かった。キリンだけが独自のリターナブル瓶を使用し、残る三社は共通のリターナブル瓶を使用していた。
昔も今も駅の売店では缶ビールが売られている。当時はJRではなく国鉄(日本国有鉄道)。駅の売店はKIOSK。その名の通り、国有企業なので、調達は偏りなく公平。ビールの仕入れは4社で25%ずつという話だった。
一方、実際の販売は顧客のニーズと需要に合わせる必要がある。北海道では地元「サッポロ」、長崎を中心とした九州や地方圏では「キリン」の需要が多くなり、結果、都市圏のKIOSKでは、アサヒやサントリーが多く並ぶことになる。
また、会社のパーティや宴会では、顧客企業の属する”系列”で、テーブルに並べるメーカー・銘柄に気配りすることもよくあった。三菱系であればキリン、住友系であればアサヒ、三井系であればサッポロ。最近はそうした場を仕切ることはほとんどなくなったが、今でも行われているのだろうか。三井住友銀行はどうしているんだろう?
80年代半ばは、麦芽100%ビールのブームがあった。4社とも麦芽100%ビールを発売したが、サッポロはもともと「エビスビール」というブランドを持っていた。ドイツのビール純粋令(原材料は麦芽とホップと水のみ)に準拠した本格ビールが「売り」だったが、これに加えて、本州では「クオリティ」、北海道では「クラシック」、九州では「アワーズ」など、麦芽100%ビールのブランドを地域ごとに展開していた。
現在も、麦芽100%の銘柄はいくつもあるが、当時から残っているのは「エビス」、「クラシック」(以上サッポロ)と「モルツ」(現在はプレミアムモルツ)(サントリー)、「ハートランド」(キリン)ぐらいだと思う。個人的には「クラシック」が一番好きなビール。ちなみに、冒頭の「晴れ風」もこのジャンルである。
この後にドライビールが来た。「アサヒスーパードライ」の出現とその後の拡大は衝撃的だった。まさにブロックバスター。このジャンルでも4社競争したが、結局、残っているのは「アサヒスーパードライ」のみ。最初は「コク・キレ」を打ち出し、その後は「鮮度」を打ち出し、巨人となった。この商品は市場のシェア構造まで変えてしまった。
キリンはその数年後に「一番搾り」というヒット商品を生み出し、ようやく、従来のメイン「キリンラガービール」との二枚看板で、アサヒに対抗していった。
この業界の仕事をしていたころは、新製品が出れば必ず買って試飲し、動向をウオッチしていたが、仕事から離れた後は、ほとんどウォッチしなくなった。このあとの展開はあまり知らない。
メーカーは、アルコール離れ、ビール離れ、ライト志向など、若者を中心とした需要の変化に注目し、そのニーズをとらえていこうとしていた。確かにそうした「マーケット・イン」の志向は重要だと思う。しかし一方で、「おいしいビールとは?」というモノづくり志向、「プロダクト・アウト」の視点も同時に重要だと思う。
「顧客に望まれないこだわりは意味がないんだよ」
日曜劇場「天皇の料理番」というTVドラマで、高岡早紀が佐藤健に言ったせりふが記憶のひだにひっかかっている。しかし、それぞれの商品やサービスの根っこにあるフィロソフィー、こだわりの中にコア・コンピタンスを生み出す原動力があるように思う。
長期的に確立されたブランドとなったのは、結局のところ「エビス」、「クラシック」、「プレモル」「スーパードライ」などである。これらの商品をみるたびにいつもそう思う。