以前、「制度変更の効果」という記事で、2024年10月から導入された「長期収載品への選定療養の仕組み」について触れた。
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国を挙げてのジェネリック医薬品の利用促進策の一環。
KPIである「ジェネリック医薬品使用割合(置換率)(数量ベース)」は80%台半ばまで上昇していたが、そろそろ天井に近く、近年、上昇のペースはきわめて鈍くなっていた。
・外用薬のジェネリック医薬品は使用感の違いが大きく先発品を希望する患者
・ジェネリック医薬品の利用そのものを頑なに拒みつづける患者
ジェネリック医薬品利用促進をさらに進めるには、こうした「抵抗」に対処する手立てが必要と考えられていた。
そうした中で打ち出されたのが、患者自らの意志で長期収載品(先発品)を選択(希望)する場合には、ジェネリック医薬品と長期収載品の薬剤費差額(現状はさらにその4分の1)を自己負担してもらうという「選定療養の仕組みの導入」だった。
1.選定療養の仕組み導入後のジェネリック医薬品置換率(数量ベース)
厚生労働省『調剤医療費の動向』で、選定療養導入前後のジェネリック医薬品置換率(数量ベース)の動きを再度確認してみた。
10月以降、長期収載品を選ぶと自己負担が増えるため、それまで伸び悩んでいた置換率が10月は90%を超える水準まで上昇した。ただし、11月以降は90~91%の水準で横ばいとなっている。
選定療養導入の効果は、いまのところ4%ポイント程度の置換率水準の上昇とみられる。
そもそも、ジェネリック医薬品の利用促進策は、それにより薬剤費の伸びを抑制し、ひいては「増加の一途を辿る国民医療費の伸びを抑制すること」が目的だった。
置換率(数量ベース)はジェネリック医薬品普及の進捗確認のための指標(KPI)にすぎない。
では、この4%ポイント程度の置換率の上昇によって、薬剤費はどのくらい抑制されるのだろうか?
後発医薬品使用割合(置換率)(数量ベース;新指標)
2.ジェネリック医薬品置換率(数量ベース)上昇分の薬剤費抑制効果試算
次図は令和6年4月から令和7年2月までの11か月間の後発医薬品薬剤費(実績)をもとに、仮に、それらが先発医薬品だった場合の薬剤費の5割程度に抑えられていたと仮定して、月ごとの薬剤費抑制効果を推計したものであるつまり後発品の薬価が平均すると先発品の5割程度と仮定した試算である。
4月から9月までの6か月間は月平均924億円の薬剤費が抑制されていた(図の濃いグレー部分)のに対して、
選定療養の仕組みが導入された10月から2月までの5か月間の抑制額は月平均1,037億円と、抑制幅は月当たり▲113億円拡大していると試算される。12倍すると、年間1,356億円の薬剤費抑制効果増になる。
確かに選定療養の仕組みを導入したことにより、ジェネリック医薬品の使用が促進され、薬剤費の抑制効果も拡大したと考えられる。
また、先発医薬品を選んだ患者には、差額の4分の1を追加的に自己負担してもらうので、保険者の給付(患者自己負担分以外の医療費)を軽減する効果もあると考えられる。
確かに「一石二鳥」の効果ともいえそうだが、施策の効果・影響はこれだけだろうか?
ジェネリック医薬品使用による薬剤費抑制効果(選定療養導入前後)
3.選定療養の仕組み導入による「後発医薬品調剤体制加算」増の可能性
これまで、院外処方せん調剤におけるジェネリック医薬品の使用促進については、薬局に「後発医薬品調剤体制加算」(以下、体制加算)というインセンティブを与える促進策がとられてきた。
令和6年6月の調剤報酬改定でも、引き続き、体制加算1~3が設けられ、体制加算1は1処方箋当たり21点、体制加算2は28点、体制加算3は30点という調剤基本料への加算点数がつけられている(1点10円)。
この加算は、ジェネリック医薬品の置換率などいくつかの要件を満たした薬局が地方厚生局に届出し、受理されると算定できる。
名称には「後発医薬品」とあるが、後発医薬品調剤の有無にかかわらず、すべての処方箋調剤に算定できる。つまり、後発医薬品のない先発医薬品のみの処方箋の患者であっても算定できる。
選定療養の仕組みが導入された前後で、後発医薬品置換率を薬局単位でみると(下図)、置換率90%以上の薬局の割合は9月の41.6%から10月は63%と20%ポイント超跳ね上がり、体制加算3の置換率要件を満たす薬局割合が急増している。
体制加算の要件には置換率以外の要件もあるが、3か月分の実績を踏まえた届出によって、より点数の高い体制加算を算定する薬局が増えれば、すべての処方箋調剤に対して算定できるので、1月ごろから体制加算及び技術料全体が増加する可能性がある。
また、選定療養の対象となる先発医薬品を選択しようとする患者に対して、このしくみの説明を行った場合には、最初に処方された1回に限り「特定薬剤指導管理加算3」(5点)も算定できるようになっていた。
後発医薬品割合別にみた薬局分布
次の図は令和6年度各月の処方箋1枚たり調剤医療費の対前年同月増減率(図の折れ線)と、増減率に対する技術料(濃い青棒)と薬剤料(薄い青棒)の寄与度を図示している。ちなみに、特定保険医療材料料の割合は小さいため(1%未満)ここでは省略している。
技術料には、調剤基本料や薬剤調整料、薬学管理用及びそれらの加算料等が含まれる。つまり、薬剤料、特定保険医療材料料以外の薬局調剤にかかる費用である。
技術料は、6月以降、調剤医療費の増加に寄与しており、10月には0.1ポイント上昇、1月はさらに0.3ポイント寄与度のプラス幅は上昇している。
加算等の増加が主因であるが、加算にはさまざまあるが、この統計では、ひとつひとつの加算項目に分解したデータは公表されていないため、厳密に「後発医薬品調剤体制加算」や「特定薬剤指導管理加算3」の影響を取り出すことはできない。
しかしながら、10月以降、薬局におけるジェネリック医薬品置換率が高まっていること、3か月の実績期間経過後の1月から加算を中心とした技術料の寄与度のプラス幅が上昇していることからは、選定療養の導入によって、後発医薬品体制加算の算定額を押し上げている可能性が示唆される。
調剤医療費増減率に対する技術料の寄与度
1月以降の技術料の増加についての粗い試算も行ってみた。
令和6年6~9月(調剤報酬改定後を対象とした)の処方箋1枚当たり技術料は、平均2,586円。令和7年1~2月の処方箋1枚当たり技術料は平均2,637円である。
従って、処方箋1枚当たりの技術料水準はひと月当たり51円上昇している。
令和6年度4月から2月までの11か月間のひと月当たり処方箋枚数は約7,400万枚(電算レセプト分のみ)なので、技術料が1枚当たり平均50円増加しているとすると、技術料は、月37億円、年444億円増えると試算される。
上述のとおり、これら増分のすべてが「長期収載品の選定療養」の導入によって「後発医薬品調剤体制加算」の算定額が増えたことによるものとは言えないものの、少なくとも一部にはその効果が含まれていると考えられる。
「後発医薬品調剤体制加算」は、ジェネリック医薬品の利用を促進することで「薬価差益」の目減りが生じる薬局側へのインセンティブであり、保険給付全体からみれば「コスト」である。
従って、選定療養のしくみの導入には、薬剤費の抑制、保険給付の抑制というコストリダクションの効果がある一方、間接的ではあるが「コスト」を誘発する効果もあると考えられる。
ただし、差引しても「抑制効果」の方が大きいので、マクロ的にみれば、「施策としてNGではない」という評価になるのだろう。
【おまけ】
先日、知り合いの薬剤師から、ジェネリック医薬品の供給は、品目によっては、依然として逼迫傾向にあるという話を聞いた。
そもそも、使用割合80%の政府目標自体が、中小メーカーによる多品種少量生産による対応を助長したことで、それが近年の供給体制・製造企業体力の脆弱性による品不足を招いているとの見方もある。
だとしたら、それは「合成の誤謬」のようであり、厚生労働省の政策が招いた医療供給体制の不具合ともいえるのではないだろうか。
それによって生じているであろうさまざまな「コスト」は、ジェネリック医薬品普及によって得られた効果(薬剤費低減)をどのくらい毀損しているのだろうか?